令和8年熊本地震|ラスト・マイル・アクセスという災害支援――支援の隙間を見つけ、必要な物資を届ける
最後の1マイルまで届ける機動力
災害が起きると、被災地にはさまざまな支援が入ります。
行政、自衛隊、医療チーム、大規模な支援団体、NPO、ボランティア。
発災直後には、多くの人員と物資を短期間に投入する大規模な支援が不可欠です。
しかし、支援が進み、道路や物流が回復し、行政や地域の機能が戻り始めると、別の問題が見えてきます。
地域全体には物資が届いている。
店も少しずつ開いている。
支援団体も活動している。
それでも、
「必要な人のところには届いていない」
ということが起こります。

福祉避難所にスポットクーラーを寄贈
私たちが今回の熊本地震で向き合っているのは、この「最後に残る支援の空白」です。
「物資がある」と「その人に届いている」は違う
令和8年熊本地震の被災地で、私たちは障がい者施設、高齢者施設、病院などを訪ねながら、必要な支援を確認してきました。
そこで見えてきたのは、単純な物資不足だけではありませんでした。
たとえば、地域には物資があっても、自分で買いに行くことが難しい人がいる。
施設に物資が届いていても、徒歩で通っている利用者であれば、一度に自宅まで持ち帰れる量には限界がある。
といった声を聞きました。

地域全体を見れば、復旧は進んでいる。
しかし、一人ひとりの生活まで視点を近づけると、まだ支援が届いていない。
「地域に支援が存在すること」と「必要としている人が、その支援を実際に利用できること」は同じではありません。
私たちは、この最後に残る距離を埋めることを大切にしています。
小さなニーズを、小さなまま見逃さない
災害支援には大小様々な活動があります。
大規模に展開する支援がある一方で、一件一件は小さく地域の中に分散しているニーズをすべて拾うことは容易ではありません。
私たちが重視したのは、
支援が届いていない人を見つける→ 必要な物を調達する→ 必要としている人のところまで届ける→ 必要に応じて遠隔から支える→ 最終的に地域へ引き継ぐ
という一連の流れです。
単に「物資を渡した」で終わらせず、必要な人まで本当に届いたのかを見る。
これが、私たちが熊本で実施している支援です。
「地域が主体となる支援」へ
国際的な人道支援の世界でも近年、外部の大きな支援団体がすべてを担うのではなく、被災した地域にすでに存在する知識、人材、組織、つながりを生かしながら、地域自身が支援や復旧の主体となれるようにすることが重視されています。
世界的に認められている「人道支援の質と説明責任に関する中核基準」でも、
地域にすでにある知識や能力、活動を土台に支援すること。
地域で活動する人たちの取り組みを支えること。
支援に必要な資源や意思決定について、できるだけ早い段階から地域が主体となれるようにすること。
などが、人道支援における重要な考え方として示されています。
この支援を地域へ引き継げるものへ
外部から10人、20人の支援者が来なければ成立しない仕組みをつくれば、支援者が撤収した瞬間に支援も止まってしまいます。特殊な設備や多額の資金がなければ動かせない仕組みも、地域へそのまま残すことは難しくなります。
だから私たちは、支援に必要な機能そのものを地域へ引き継げる形にすることを重視しています。
必要としている人を見つける。
何を優先するか判断する。
地域内外の資源へつなぐ。
最後に残った距離を埋める。
という仕組みを動かすことができれば、それは地域の社会資源へ引き継げる可能性があります。

口腔ケア用品を探すOBJ看護士スタッフ
地域のNPO
地域団体
ボランティア
地域の専門職
普段からその地域にいる人たちが、この小さな支援の仕組みを担えるようにする。
そして外部の支援団体は、必要に応じて後ろから情報、物資、物流、専門知識、資金などを支える。
支援が届いていない人を見つけ、その人まで支援をつなぐための、再現性の高い仕組みを目指しています。
今回の熊本でも、物流が回復し、遠隔や宅配で対応できる支援が増えてくれば、現地に人が居続ける意味は変わってきます。
現地でしかできないことは何か。
遠隔へ移せることは何か。
地域へ引き継げることは何か。
その判断をしながら、支援活動そのものを地域へ少しずつ渡していきます。
外部が支援する段階→ 地域と一緒に動く段階→ 地域が主体となり外部が後方から支える段階→ 地域が主体となる段階
へ移していく。
地域に残すのは「物」だけではない
災害支援で地域に残るものは物資や設備だけではありません。
「この人にはまだ支援が届いていない」と気づく力。
そのニーズを整理する力。
自分たちで対応すべきか、行政や別の専門機関へつなぐべきか判断する力。
地域内で足りなければ、地域外の資源へ接続する力。
そして、必要としている人まで最後につなぐ力。
地域に「支援を受ける力」だけではなく、「支援を組み立てる技術」を残すことができます。
そこまでできれば、外部支援者が撤収しても、その地域の災害対応力は以前より少し強くなります。
日本のこれからを考える
日本ではこれから、人口減少と高齢化がさらに進みます。
特に地方では、行政、医療、福祉、地域活動の担い手そのものが減っていく可能性があります。
災害が起こるたびに、外部から大量の人を送り込み続ける方法だけでは、将来、支援する側の人員そのものが足りなくなるかもしれません。
同時に、高齢者、障がいのある方、在宅療養者、移動手段を持たない方など、一人ひとり異なる事情を抱える人への支援は、より重要になります。
だからこそ、大規模な支援が地域全体を支え、その網の目から残った小さなニーズを地域の小さな支援単位が拾う。
そして、その小さな支援単位を地域外のネットワークが支える。
そんな重層的な仕組みが必要になると私たちは考えています。
大きな支援の網から残った、小さな支援の空白を見つける。
必要としている人まで届ける。
地域の人と一緒に仕組みをつくる。
そして、その仕組みを地域へ渡して外部支援は後ろへ下がる。
その小さな仕組みを、別の地域でも再現する。
地域に残る小さな支援力を増やし、それらを大きなネットワークでつなぐことも、支援を大きくする技術になります。
それが、私たちが考える、これからの災害支援の形です。
支援の隙間へ届ける力を、皆さまとともに
今回の熊本での活動を支えてくださっている皆さまに、心より感謝申し上げます。
皆さまから託されたご寄付と応援が、支援の届いていない場所を探し、一人ひとりの声を聞き、必要な物資を最後の1マイルまで届ける力になっています。また、その支援は目の前の不足を補うだけでなく、地域の方々とともに、これからの支援の仕組みを育てることにもつながっています。
支援の形は、現地の状況とともに変化していきます。OBJはこれからも、地域の声に耳を傾け、外部から支えるべきこと、地域とともに担うこと、そして地域へ引き継いでいくことを見極めながら活動を続けます。
熊本の一人ひとりの暮らしと、地域に残る支援の力を支えてくださっている皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。