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【連載3 BCP】非常時に求められるリーダーのあり方・支え方

近年、自然災害やサイバー攻撃など、予測不可能なリスクが増加しています。こうした状況から、企業や自治体にとって事業継続計画(BCP)の策定と運用は必要不可欠なものとなりました。危機が発生した際にいかに迅速な対応し早期復旧ができるかは、組織の存続や社会的信頼に大きく関わってきます。

「能登半島地震から学ぶBCP」シリーズ第3回めの最後は、能登の福祉施設の管理職(リーダー)が災害時に直面した課題から、もしもの時に求められるリーダーのあり方と周囲のサポート体制について紐解きます。

これまでの記事はこちら
【連載1:物資編】もしものときに困らないための3つの備え
【連載2:メンタルヘルス編】管理職に起こるメンタル課題とその要因、BCPに盛り込むべきメンタルケア

福祉施設のリーダー経験は企業のBCPにどう活かせるのか?

福祉施設は、災害時でも業務を止めることができない「最前線の現場」です。
入所者の安全確保、支援物資の受け入れ・管理、職員の配置調整など、短時間で多くの重要な決断を下さなければなりません。
この状況は、企業の危機管理やBCPにおけるリーダーの役割と多くの点で共通しています。

実際に福祉施設のリーダーたちは、災害時のプレッシャーのなか、刻々と変化する状況の対応に追われながら、組織の持続可能性を左右する意思決定を行ってきました。
実際に能登で支援にあたった臨床心理士・防災士のスタッフの視点も交え、BCP策定の際に役立つリーダーのあり方、周囲の支え方について紹介します。

能登半島地震

1.決定疲れの罠 ~過度な意思決定がもたらす影響~

➀災害時にリーダーが直面する意思決定の負担
福祉施設では、災害発生直後から「どの業務を優先するか」「限られた物資をどう配分するか」など、時には利用者の命にかかわる重要な決断を迫られます。このような緊急時の意思決定が積み重なると、判断力が低下する「決断疲れ」に陥るリスクが高まります。

決断疲れ(decision fatigue)」とは、意思決定を繰り返すことで集中力や思考力が低下することを指し、簡単なタスクにも時間がかかるようになったり、疲れが取れず不眠になるという悪循環が発生することもあります。

➁決定疲れを防ぐための対策
リーダーの意思決定疲れを予防し、組織全体の危機対応能力を維持するためには、一例として下記の具体策を取ると効果的です。

●意思決定を分担する仕組みを構築
副リーダーやチーム制を導入し、物事の判断の責任がリーダーに一点集中しないよう分散させる

●ルール化・ルーチンワーク化を進める
事前に非常事態の対応フローを策定し、緊急時の判断基準を明確化しておく。その際、自分たちだけでなく外部に委託できるタスクをリストアップし、災害時業務がパンクしないように備える。

●リーダーが相談できる体制を整備
メンタル面を含めたサポートシステムを設置し、判断を共有できる環境を構築する。精神衛生の専門家などにも相談・ケアを受けられる連携体制を事前にセットアップし、リーダーのメンタルケアを伴走で支えられるようにする
参考:災害時のリーダーのメンタルケアの具体策


2.「過度の責任感」が招く孤立とチーム崩壊

福祉施設では、「利用者や職員を守らなければならない」という強い使命感が、時にリーダーを追い詰めることもありました。企業でも、「リーダーはすべてを背負うべき」という風潮があると、組織全体の危機対応能力が低下します。
チームで支えるリーダーシップを確立させるためには、チーム全体で考える文化を醸成し、なおかつリーダーがSOSを出しやすい環境を整備することが大切です。

一例としては、下記の対応が挙げられます。
・「リーダーがすべてを決める」のではなく、チームで議論する機会を増やす
・定期的なストレスチェックや相談窓口の設置を推進する
特に非常時は、過度の緊張などからリーダーが疲れを実感しないまま休息を取らずに働き続け、燃え尽きてしまうケースがあります。ストレスチェックを盛り込むことで、精神的負担を客観的に評価し、心身を崩すまえに早めのケアを受けられるようにしましょう。


3.非常時にこそ求められる「コミュニケーション力」

被災地の福祉施設では、リーダーからの声かけが大きなメンタル支援となり、時に組織の結束を強める要因となりました。企業の危機対応でも、「リーダーがどのように情報を伝えるか」「声かけに配慮するか」が、チーム全体の士気や人間関係に関わってきます。

非常時にチームに適切な声かけを行い、良好なチームワークを保つためには、平時からの心がけと準備が欠かせません。特に、災害時はスタッフが様々な不安やショックを抱えている場合が多いため、通常とは異なる慎重な声かけが求められることもあります。時には精神衛生専門家の意見も取り入れながら、下記3つの具体例を参考に効果的なコミュニケーションを実践しましょう。

➀平時から対話の習慣をつける
仕事の進捗だけでなく、困りごとやアイデアを話せる対話の場を作りましょう。
日常の業務報告をチャットツールではなく、短い対話形式(5分程度の朝ミーティング)で行い、気軽な意見交換を促すことで、相手との信頼関係も構築しながら円滑なコミュニケーションを取ることができます。

➁定期ミーティングや話しやすい場を設ける
非常時は多忙な業務に追われがちですが、合えてチームが顔と顔を合わせ情報伝達することは、認識のすれ違いや誤解を防ぐのに効果的です。
定期的に短時間のミーティングを設定し、メンバーが自由に意見を出せる場を作ることで、メンバーの主体性を育てつつ選択肢を検討できるようになることにつながります。

➂精神衛生の専門家による心理教育を受ける
リーダーが災害時に冷静に状況対応にあたるためには、普段から自分の考え方の癖や思考パターンを把握し、ストレス時の対応スキルを身に着けておくことが大きな武器となります。
事前に精神衛生の専門家による心理教育や講習を受けられれば、自分の性格傾向を把握すると同時に、被災した利用者・同僚・部下への適切な関わりかたについて学ぶことができます。災害時でも円滑なコミュニケーションが取れるようになるだけでなく、自分自身の心も守るために、精神衛生の専門家に講習を依頼し実践的知識を蓄え、未来の非常時に備えましょう。


まとめ:リーダーを支えるとで、より持続的なBCPを

福祉施設のリーダーは、予測不能な状況のなかで即座に対応するスキルを培っています。その経験から学べる危機管理のカギは、以下4つにまとめられます。

意思決定の負担軽減:決定疲れを防ぐために、判断の分担とルール化を推進
責任の分散:チームで支えるリーダーシップを確立し、孤立を防ぐ
適切なコミュニケーション:リーダーの伝え方が組織の結束を左右するため、平時からの対話を重視
事前教育:リーダー自身のメンタルケア対策、非常時の声かけについて学び備える
そして同じように大切なのが、最前線に置かれたリーダーや管理職の状況を、理事会や上層部がよく理解し、対話を欠かさない意識をもつことです。

内閣府で公開しているBCPのガイドラインもチェックしながら、ぜひ上記のポイントを参考にしてみてください。

リーダーに求められる対応、そしてリーダーが支えられる体制づくりを強化し、より災害に強い持続可能な組織運営の準備を進めていきましょう!

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