1. HOME
  2. Activity Reports
  3. 【プロボノ レポート】『災害とこころの支援2』

【プロボノ レポート】『災害とこころの支援2』

被災地での支援活動は、被災された方々のニーズに応えるために、被災後の時期に合わせた継続的な取り組みが求められます。能登半島地震から1ヶ月半が経過した頃、私は初めて被災地を訪れました。支援活動に携わりながら、地域に暮らす方々の心の状況について得た気づきや感じたことについて報告したいと思います。

支援する人と支援される人 それぞれの被災体験

支援活動中に立ち寄った金沢で、Aさん(50代女性)からお話を伺うことができました。
Aさんは比較的被害の規模が小さかった金沢市で暮らしていますが、能登地方のご実家には高齢のお母様と弟さんが暮らしています。発災直後から実家の被害状況を心配していましたが、ご家族へ連絡しても、「今はまだ、手のつけようがない状態だから、来なくていい。」と止められていたのでした。Aさんがやっとご実家を訪問できたのは地震から40日が過ぎた頃でした。

「母はお風呂に40日間入っていないと話しました。井戸水はあるけれど飲み水がなく、電気は通っているものの雪や雨が降ると停電する。散乱した荷物は雨漏りでカビ臭くなっていました。」

ご実家は倒壊を免れたものの、家財が散乱し、唯一居間だけが居住スペースを確保している状態だったそうです。

「私はなぜ実家に帰ったのかというと、家を片付けたかったからです。それを家族が望んでいると勝手に思っていました。私は家に着いて、あれも捨てよう、これも捨てようと捨てる気満々で意気込んでいました。」

家を片付けようと意気込んで帰った実家でしたが、次第にご家族とのやりとりに違和感を感じるようになったと言います。

「はじめは答えていた母でしたが、だんだん答えなくなって、私は無力になっていきました。弟が仕事に行く時も、『この部屋に入るな』『ここの物は触るな』と言われ、母からも、『これは後で時間がある時にゆっくり見るから』と言われてしまい、やることがありません。かえって私がいることが迷惑なのかも、帰って欲しいのかなと思えてきました。」

「3日目、部屋で考えてみました。私は片付けたい。でも、きっと母や弟も片付けたいけど自分のペースがあるんやないか。こんなにすごいことになっているところに住めない!と私は思うけど、自分の想いや思い出の詰まっている物は捨てられないんやないか。自分も地震に遭ったら、同じことをしているのかもしれない。捨てないんじゃなくて、捨てられない。だから今、その時が来るまで待っていて欲しいと思っているんかなと、少しだけ気づきました。」

「そして、母や弟から地震の時のことを何も聞いていないことに気づきました。座ってじっくり話を聞いていなかったのです。大変な思いをして、話したいこともいっぱいあるだろうに。人の心もわからない私は、神様に祈るしかないとつくづく思いました。神様ならどうしたら良いか教えてくださるのではと。
そして次の日弟に、『ずーっと大変やったね。何もできなくてごめん。ばあちゃんの側にいてくれて、雨漏り、停電、水、やることいっぱいあったけど、乗り越えてくれた。本当にありがとう。』と話しました。母とは出来るだけ座って話をするようにしました。そうしていたら弟や母から、『◯◯してほしい』『前からこれしたかった』など、自分から頼んでくるようになったのです。私のペースで進んでいた時は何一つ頼まれず、どんどん距離が出来ていたのに。
その人にはその人のペースがある。やらないのではなく出来なかったのだと気づきました。」

地震発生からこれまで頑張ってきたことへの労いと感謝を述べた時に、ご家族はやっとAさんに心を開き、支援を求めるようになったということです。

災害後の理解とケア

災害支援を行う際には、支援者から被災者への声がけや態度のあり方に注意が必要だと言われます。内閣府が推奨する支援者の研修テキストによれば、「まずは被災者の気持ちを受け止めながら相手の状況を聞き、相手が何を望んでいるか、支援者側の理解が間違っていないか、確認することが必要」となっています。これは言われてみれば当たり前のようですが、実際の現場で適切に実行するのはなかなか難しいものです。

前項で述べた被災者の心理的プロセスにもあるように、災害に遭った人々は様々な心の変遷を辿っています。心のプロセスは個人の状況によっても異なるため、人によっては発災直後の茫然自失の状態が遷延していることもあります。心が傷つき疲弊している状態の中で、気持ちを汲みとってもらえないままにせっせと作業が始まっていったら、なぜこれまでやらなかったのかと責められているような思いになるかもしれません。あるいは、たとえ廃棄する物でも生活を共にしてきた想い出の物がガラクタのように扱われたら、心情を無視されたと感じて悲しい気持ちになるでしょう。

一方で、支援する側にとっても、このようなことは避けたい事態です。支援するつもりがかえって相手を傷つけてしまったとなれば、自責感や無力感を抱いてしまいます。支援者や関わり手が心理的に傷付きやダメージを受ける現象は二次受傷と呼ばれ、これ自体も近年取り組むべき課題として扱われています。特に、使命感や熱意が高い支援者ほど、二次受傷に陥ってしまう危険性が高いと言われています。

災害への備え−心の回復と復興のために−

Aさんもある意味では二次被害を受けた被災者と言えるかもしれません。支援する側もまた二次被災者となることを理解し、災害後のストレス反応や喪失体験に関する理論を知ることは、被災後の適切な介入やケアを提供するために大切だと考えられます。しかし、何よりも重要なことは、Aさんのように、謙虚に被災者の気持ちに向き合おうとする姿勢なのだと思いました。

自然災害の多い日本では、誰もが様々な形で被災者となる可能性があります。災害時の心理的反応の多くは異常な状況下で起こる正常な反応です。支援する側にとっても支援される側にとっても、事前に災害に関する知識を得て普段から準備をしておくことが、心の回復を含む復興を進める上でとても大切なことだと感じました。

臨床心理士・精神保健福祉士 髙橋恵子


【参考・引用文献】
・避難生活支援/リーダー・サポーター研修テキストより 内閣府
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/pdf/231005_kenshu01.pdf
・自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル 厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究https://www.mhlw.go.jp/content/000772550.pdf
・災害時の精神的ケアについて 日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=50

関連記事