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【プロボノ レポート】「彼らが生きてきた意味を見つけてほしい」~つながり支援の現場から

2023年12月、私はオペレーション・ブレッシング・ジャパン(以下OBJ)が実施するクリスマス・ギビング・アクションに参加し、「社会福祉法人 ともの家」(静岡市清水区)を訪問しました。

障がい者の人生に寄り添う「ともの家」

「ともの家」は障害者支援を行う法人です。共同生活援助や生活介護事業、就労継続支援A型・B型事業を運営しています(※1)。自閉症の方、ダウン症の方、重度心身障害の方がいます。当該施設を訪れたのは、京都の東山区自立支援協議会主催の災害部会(オンライン)で、施設長 瀬戸さんの講演をお聞きしたことがきっかけでした。2022年台風15号の発災時、職員や利用者の安否確認に追われてBCP(事業継続計画)の難しさを実感、また災害後の事業所の厳しい運営状況について話されていたことにとても共感と興味を覚え、また、活動の場が同じ清水区同士であった事もあり、直接お会いする機会を頂いたのです。

障がい者と避難所の現実

クリスマス・ギビング福祉施設へ広がる 災害時の孤立防止にまず、瀧戸さんから災害対応についてのお話を聞かせて頂きました。災害時には、避難所として指定された小学校がバリアフリーではなく、また特定のニーズを持つ自閉症の利用者には適さないことが問題とされました。例えば炊き出し支援の場合、そうした方々は炊き出しの場所へ自分で足を運ぶことが難しい、もしくは無理なケースが少なくありません。さらに、「共同生活援助の事業所を自主避難所とする場合、(公的)支援物資が得られない。」。つまり、災害時には本来支援が必要な人々に支援物資が行き渡らないことが多いという実態が浮き彫りになっています。

自閉症の方々のための避難所を作りたい

さらに話題は自閉症者の避難所適応問題にも及びました。自閉症の方々は災害時に、大勢の人が避難してくる場所に適応することが難しいとされています。彼らは自分の意志を言葉で表現することが難しく、意思表現が結果的に大声となり意味を成さない場合もあります。そうした現実を目の当たりにしている「ともの家」では、就労継続支援事業所tomo近隣に広さ20畳ほどの集会所兼避難所を自ら建設する計画を立てています。しかし、関係機関の理解を得ることに難航しているとのこと。それでも瀧戸さんは、「だからといって何も行動しないわけにはいかない」と力強く語っていました。

慢性的人手不足の課題を抱える福祉業界

ところで、福祉業界では人手不足が慢性的な課題となっています。これはいくつかの理由によるもので、「人材派遣会社に支払う高額な手数料が払えないため、事業規模が小さいほど採用が難しい」(1)ということが挙げられます。さらに、「障害者施設の運営は大部分が公費で賄われているにも関わらず、日本のGDP(国内総生産)に対する障害福祉への公費支出割合は、他のOECD(経済協力開発機構)加盟国に比べて著しく低い」(2)ことも指摘されています。このような状況下では、地域社会への理解を促進するための取り組みが容易ではありません。さらに、就労継続B型で作業する方々の工賃は非常に低く、令和3年度の全国平均工賃の月額は16,507円です(3)。1時間単位で計算すると233円に相当します。さらに、障害年金の額も低く、年額で993,750円であり、1月あたりの収入は約82,800円です(4)。この収入は、65歳以上の単身無職世帯の実収入である134,915円(5)よりも約5万円も低いことになります。

彼らが生きてきた意味を見つけてほしい

今回のともの家での体験から、「彼らが生きてきた意味を見つけてほしい」という瀧戸さんの言葉が印象的でした。私は、社会との“つながり”を持つことで、人は生きる意味を見出すのではないかと感じています。OBJの理念には、「深刻な状況下で苦しむ人たちに救いの手を差し伸べ、生きる希望を届ける」とあります。災害支援、心の支援、コミュニティ支援など様々な支援活動を通し、苦難の中にある人々や社会で最も弱いとされる人々にとっての生きる意味、生きる希望となる“つながり”を創出しています。

クリスマス・ギビング・アクション~つながりを作る

クリスマス・ギビング福祉施設へ広がる 災害時の孤立防止にその1つ、クリスマス・ギビング・アクションは「小さな贈り物を届け“つながり”をつくる」ことを目的とした社会課題解決のためのプログラムです。昨年は「ともの家」でも、より多くクリスマス気分を味わっていただきたいと思い、赤いギフトバッグをお届けしました。私自身、皆さんと繋がる事ができてとても嬉しく思いました。日常からつながりを築いていれば、災害時でもすぐにお互いを助け合うことができるだけでなく、離れていても生きる希望となることができるでしょう。クリスマス・ギビング・アクションは、そのような支援体制を地域社会に構築していくために重要な役割を担うプログラムになると期待しています。


障がい者に関わる避難所の課題は一朝一夕で解決するものではありません。当事者や家族の意識、周囲の理解、社会的な体制等、解決しなければならない問題は山積しています。だからといって何もしないわけにはいきません。問題解決は関心を持つことから始まります。障がいを持つ当事者として、災害を経験した被災者としての声を発信しつつ、必要とする人々の元へかけつけ生きる希望“つながり”を届けていきたいと思っています。

※1)就労継続支援事業所A型とB型。その違いは、A型事業の対象者は、一般企業で雇用されることは困難だけれども,雇用契約に基づく就労が可能な方です。一方B型事業の対象者は、一般企業で雇用されることが困難で,雇用契約に基づく就労も困難な方、になります。

社会福祉士 伏見氏伏見 隆次(フシミ タカツグ)
静岡市出身
2007年交通事故により脊髄損傷。以降車椅子生活を送る。
日本福祉大学 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科卒
社会福祉士


引用 出典
(1)参考引用論文
一般財団法人厚生労働統計協会 第64巻第15号「厚生の指標」2017年12月
障害者グループホーム職員による地域との関係形成支援の現状と課題-グループホーム職員の地域関係形成支援に関する調査より- 船本 淑恵
(2)2023年10月3日発行 増刊通巻第8844号 SSKS月刊きょうされんTOMO№.523
(3)厚生労働省 令和3年度工賃(賃金)の実績について
(4)日本年金機構 障害基礎年金の受給要件・請求・年金額
(5)「家計調査年報2022年(令和4年)家計の概要」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/kakei/2022np/index.html)

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