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【連載2 能登地震から学ぶBCP:メンタルヘルス編】

「能登半島地震から学ぶBCP」シリーズでは、能登半島地震の事例を踏まえながら、より安心・安定したBCP(事業継続計画)を策定するための方法をお伝えしていきます。企業、事業所などさまざまな現場に活用できる内容となっておりますので、BCPを立てる際にお役立ていただければ幸いです。

◆第一回目「物資編:もしもの時に困らないための3つの備え」はこちら

第2回目は「メンタルヘルス編」として、災害が起きた際、福祉施設の管理職に起こるメンタル課題とその要因、BCPに盛り込むべきメンタルケアの内容についてご紹介します。
実際に能登の福祉施設にて現地調査を行い、被災者の心のケアにも従事しているOBJスタッフ(臨床心理士)の視点からのリポートします。

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1.管理職者が直面する負担とリスクの実態

被災した福祉事業所の管理職は、自身が被災者でありながらも、利用者と職員の命を守るという大きな責任を担っています。
普段の業務に加え、届けられる支援物資の管理、職員の配置調整、行政との緊急のやり取りといった膨大な事務を同時にこなさなければならず、過酷な環境のなか極度の精神的負担を抱えることになります。

今回のインタビュー調査では、ストレス要因として特に以下の3点が挙げられました。

➀意思決定に伴う負担
緊急時には、管理職がこれまで経験したことのない判断を迫られる場面が多々あります。一部の事例では、輪島で被災した本部の指揮系統が機能せず、連絡がつかない・指示が受けられない状況が発生しました。
その結果、相談できる相手がいないまま決断を下さねばならず、責任が管理職に一点集中することとなりました。このような状況が心理的な負担を増幅させ、過度なプレッシャーの要因となったと考えられます。

➁非常時におけるコミュニケーションの課題
災害発生時は通常業務に加え多くの対応が求められるため、職場内でのコミュニケーションが不足しやすくなります。
調査では、「部下に適切な声かけができなかった」「利用者にどのような言葉をかければよいかわからなかった」といった声も聞かれました。

管理職者は、職員それぞれの家庭の事情(家屋の修理や家族の世話など)も考慮しつつ、利用者の適切なケアを遂行しなければなりません。
しかし、意思疎通が十分に取れないと職場の関係性が悪化し、最悪の場合職員の離職につながる可能性もあります。
災害時においても、部下や利用者との信頼関係を維持しながら働く環境を整えることの難しさが、改めて浮き彫りとなりました。

➂事務作業の急増による疲弊
災害発生直後から、管理職者は膨大な事務作業に追われることになります。行政との連絡、支援団体やボランティアとの調整、修復業者との交渉など、内容は多岐にわたります。
本部が被災して指示を仰げない中で、これらの業務をその場その場で判断しながら担わざるを得ず、中には自宅に戻ってからも作業を続ける管理職者もいました。
さらに、体調不良や家庭の事情で出勤できない職員がいると、人員調整が困難になり、業務負担がさらに管理職者に圧し掛かってしまうというケースも珍しくありません。


2.メンタルヘルスの悪化が事業運営に及ぼす影響

管理職者がメンタルヘルスの問題を抱えたまま業務を続けると、事業そのものが安心・安全に維持できなくなる危険性があります。
これは個人の問題ではなく、組織全体の運営・存続に関わる重要な課題です。

長時間労働と過度なストレスが重なってしまうと、管理職者の体力・判断力は低下します。福祉施設では利用者の命に関わる判断を行う機会も多いため、管理職者をはじめとした職員のメンタルヘルスをいかに適切に管理しケアするかが、BCP策定には欠かせない要素となります。
特にリーダーが倒れてしまった場合、全体の統率が取れなくなり施設運営が大きく揺らいでしまうため、無理なく働き続けられる運営計画を盛り込むことが大切です。


3.BCPに管理職者のメンタルケアを盛り込むポイント

BCPを策定する際は、物資の備蓄や避難計画の整備だけでなく、「管理職者および職員のメンタルヘルスケア」を明確に組み込むことで、上記のリスクを軽減することができます。具体例を紹介しますので、自施設のBCPを考える際の参考にご覧ください。

➀役割分担や交代制の導入
災害時は、「とにかく対応しなければ」という意識と責任感から、休憩を取らずに働き続けてしまう管理職者が多くなります。
しかし、長期間にわたる災害対応では、休息を確保しながら持続的に業務を継続する必要があるため、BCPの中に「シフト制」や「役割分担の明確化」を盛り込み、管理職者含む職員が適切に休息を取れる体制を整えることが先決です。

➁心理専門家との連携
災害時には、管理職者が自身のメンタルヘルスの状態を把握し、必要に応じて適切なサポートを受けられるようにすることが重要です。例えば以下のような施策を取り入れることで、管理職者の心理的負担を軽減し、部下や利用者に必要なメンタルケアの対応を事前に学ぶことができます。
・心理カウンセラーや専門家と連携し、定期的に相談できる機会を設ける
→精神状態を客観的に評価することで、心労がピークに達する前に早めに休息する工夫を取り入れられる

・事前に精神衛生の専門家による心理教育を受け、被災した利用者・同僚・部下への適切な関わりかたについて学ぶ
→被災時の心のケアについて効果的な声かけなどを知っておくことで、災害時でも円滑なコミュニケーションが取れるようになる

➂業務の分散化・外部ネットワークの活用
災害時に不足しがちなマンパワーを補うためには、タイムリーな情報共有体制の取れた外部団体との連携が大きな力を発揮します。
特に、福祉事業所が自分たちだけで対応できる作業には限界があるため、ネットワークの活用を徹底し、常駐可能な外部団体との連携体制を日ごろから整えておくと安心です。
電話対応や書類作成など、割り振れるタスクを事前に把握し、もしもの時にそれらの対応を委託することで、管理職者への過剰な業務負担を分散させるように意識しましょう。


まとめ

災害時も安定した事業運営を行うためには、管理職者が心身ともに健康で働くためのメンタルヘルスケアが欠かせません。
BCPに上記の内容を盛り込むことで、リーダーや職員が互いの心身の健康に配慮し、外部の助けを借りながら無理なく利用者を支え続けることができます。
普段から災害時に求められるコミュニケーションのあり方について学び、外部との連携体制を確保できるよう、ぜひ上記のポイントを参考にしてみてください。

次回は、「福祉現場からリーダーへの教訓~災害時に学ぶマネジメント~」として、企業のBCPにも活かせる持続可能な組織運営のあり方について紹介します。

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