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【プロボノ レポート】『災害とこころの支援1』

被災地での支援活動は、被災された方々のニーズに応えるために、被災後の時期に合わせた継続的な取り組みが求められます。能登半島地震から1ヶ月半が経過した頃、私は初めて被災地を訪れました。支援活動に携わりながら、地域に暮らす方々の心の状況について得た気づきや感じたことについて報告したいと思います。

のと里山海道

復興へのステージ

輪島市で被災した個人宅からの要請を受けて、地震で倒れて壊れてしまった家財を搬出する作業のお手伝いに同行しました。全壊・半壊を免れた家屋でも、未だ家財が倒れて散乱した状態が残っているのを目の当たりにし、今回の地震被害がいかに大きなものだったかが想像されました。壊れていなければまだ十分に使用できる電化製品や、長年大切にされてきたと思われる趣のあるタンスなど、様々な物が外へ運び出されていきました。

能登半島地震 支援活動

OBJスタッフやパートナー団体、数名のボランティアによる家財の搬出が終わると、家の方は「やっと外に出せた。作業が一気に終わって本当に助かりました。」と肩の荷を下ろされた様子でした。しかし一方で、思い出の品を手放すことや、親しくしていた近隣住民が避難のために町から離れていってしまうことが本当に寂しいとも話されました。使い慣れた家財を手放すだけでなく、慣れ親しんだ人々が離れていき、これまでの生活が一変してしまうのは、どれほど寂しく不安を感じることでしょうか。しかし、寂しさを振り払うように、次のようにも語ってくださったのが印象的でした。「だからこそ、私はこの地域に残って、残っている人たちを励ます役割があると思ったんです。お年寄りが多い地域だから、まだ若い自分が頑張らなきゃと思って。」

また、他の被災者の方からも「それほど付き合いがなかった近所の人々とも、地震という危機をきっかけに支え合うようになり、よく話をするようになった。」などの声も聞かれました。

能登半島地震 支援活動

被災者の心理的プロセス

一般的に災害後数日から数週間は、災害直後の混乱が落ち着き、人々の間で助け合いの精神や連帯感が生まれる時期と言われます。この時期は被災者の心理的プロセスではハネムーン期と呼ばれますが、その後、人的物的喪失の甚大さに直面し、喪失感や被害感が生じる幻滅期と呼ばれる時期に入っていきます。私が訪問したのは災害から1ヶ月が過ぎた災害中期に入った頃であり、家族や地域の仲間と共に困難を乗り越えていこうとする意欲が残りつつも、失ったものへの喪失感が表れ始め、それらが拮抗しながらもハネムーン期の次のステージと言われる幻滅期へと移行していく時期だったと思われます。

被災者の心理的プロセス
被災者の心理的プロセス(Zunih & Myer,2000 より改変)

心の復興とレジリエンス

この幻滅期をどのように過ごすかが、その後の心の復興に大きく影響することが考えられます。お手伝いをした被災地域の方々は、地震災害という困難な経験を通して新たな人間関係を築く機会を得たと考えたり、これからの生き方や人生の目的を見出すなど、苦境に立ち向かう前向きな姿勢を持っていました。このように、困難にあっても環境に適応し、柔軟に考え抵抗する力を心理学ではレジリエンス(resilience)と呼んでいます。レジリエンスとは、柔軟性、適応力、しなやかさ、抵抗力という意味です。レジリエンスが高い人は、危機的な出来事に遭遇したとしても、持ち前の柔軟性や適応力によって回復していくことが可能になります。

支援者の役割

いかにレジリエンスが高い人でも、生活再建が思うように進まない状態が長く続く場合、次第に無力感に苛まれて精神状態が悪化してしまうかもしれません。能登半島地震のような大規模な地震災害では、発災後から中・長期に入っていくと、生活再建が進んでいく人達と停滞してしまう人達に二極化していくことや、もともと高齢化や人口減少が進んでいた地域での若年層の流出がさらに進んでいくことなどが懸念されます。

心身の健康は、安全で快適な生活環境が基盤になるため、まずは生活再建が優先されます。しかし、その後の喪失感や孤立を防ぎ、被災者の本来持つ力であるレジリエンスが発揮されるためには、地域コミュニティの維持・回復、再構築の支援に加え、それぞれの能力や状況に応じて、被災者自身の回復する力を促進するサポートが支援者に求められるのだと感じました。

臨床心理士・精神保健福祉士 髙橋恵子

→【プロボノレポート】「災害とこころの支援2」へ続く


【参考・引用文献】
・避難生活支援/リーダー・サポーター研修テキストより 内閣府
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/pdf/231005_kenshu01.pdf
・自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル 厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究https://www.mhlw.go.jp/content/000772550.pdf
・災害時の精神的ケアについて 日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=50

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