【知ることからはじめる】「令和6年能登半島地震」から見えてきた、災害弱者への支援のあり方
災害への備えは知ることから始まります。いざというときにはどのようなことが起こるのか、何を備えておけばよいのか、考えるきっかけになればと思い、ここではご自身も車椅子生活を送る社会福祉士 伏見さんによる、当事者としての視点を交えたレポートをご紹介します。
『障害者を消さない 東日本大震災、避難所から障害者が消えた。「大声を出す娘の口をガムテープでふさごうと思った」知的障害のある娘と避難所に身を寄せていたが、身も心も疲れ果て、避難所を離れた家族が口にした言葉。能登半島地震 障害のある人は、必ずいる。』
と1月1日に発生した能登半島地震の後、株式会社ヘラルボニー(1)の共同代表を務める松田文登さんと松田崇弥さんの共同X(旧Twitter)に発信された言葉です(2)。
被災地では障がい者の避難施設が被災し、通所施設での避難を余儀なくされた事例もありました。一般避難所では障がい者にとって不適切な環境があり、特に自閉症の方や身体障がい者は避難が困難であることが指摘されています。
障がい者が避難所に一人もいない
「障がい者が避難所に一人もいない」「どの避難所に行っても、身体障がい者を見かける事は無かった。」という話を、静岡市から能登半島地震の被災地支援に派遣されていたAさんから聞きました。オペレーション・ブレッシング・ジャパン(以下OBJ)は1月1日から情報収集を開始、4日に現地入りし、特別養護老人ホームを皮切りに様々な福祉施設へ物資を提供しましたが、障がい者の安否情報をはじめ、障がい者がどこに住んでいるのかという情報を得ることは容易ではありませんでした。協力関係にある社会福祉法人ミッションからしだねの調査によって声を拾い、「断水による影響で衛生面が心配」「暖房のための燃料が不足している」といった要望に応えることができたのです。
障がい者と避難所の現実
冒頭にご紹介したXの投稿の中で、「大声を出す娘の口をガムテープでふさごうと思った」というご家族がいました。障がい者にとって、一般避難所の居づらさは想像に難しくありません。特に自閉症の方は音や光に敏感で、環境の変化に対応するのが難しいです。被災された方が多い避難所では障がいのある当事者だけでなく、そのご家族も心苦しさから追い詰められてしまいます。
そんな時に選択肢として上がるのが広域避難(3)です。実際に広域避難をする知的障がい者施設の方々のニュースが報道されました。一方で身体障がいのある方はどうでしょうか。私と同じく、脊髄損傷により下半身が完全にマヒしている人の場合は、まず、自宅から出る事が困難な状況でしょう。出られたとしても、道路に亀裂や段差がある場合、避難所まで行くことが困難です。さらに、避難所では壁側(隅)から場所が埋まっていくので、残っている場所はプライバシーが全く無い場所になってしまいます。また、避難できたとしても排尿のためのカテーテル等医療品が無ければ、尿毒症等に罹り命の危険にさらされます。
(防災訓練に参加した際には、避難所のバリアフリー化の不足が明らかになり、障がい者や高齢者にとって利用しやすい施設や設備の整備が必要であることが分かりました。)
ニュースの中で紹介された方の言葉がとても印象に残っています。福祉避難所に入れず、指定避難所で生活する障がいを持った方は「自分のような障がい者にとって、多くの人が避難している団体生活はとても難しいものだった。」と語りました。様々な物が床に置かれる状況で、彼が歩行しながら移動するのはどれ程難しかったでしょうか。立場が弱いとそれだけ物が言えなくなります。
災害弱者への支援のポイント
災害弱者への支援のあり方は、以下のような重要なポイントが浮かび上がります。
情報の共有と確保:
災害発生時には、障がい者や高齢者などの災害弱者の安否情報や居住地情報が十分に確保されるようにする必要があります。支援団体や自治体は、迅速かつ効果的に情報を共有し、被災者のニーズを把握するための体制を整える必要があります。
適切な避難施設の確保:
避難施設は、障がい者や高齢者が利用しやすいバリアフリーな施設であることが求められます。また、通所施設等での避難が必要な場合には、段ボールベッドを用意する等の適切な対応が重要です。発災前に段差にかけるスロープの長さや、必要個数を調べて備蓄します。
ニーズに応じた支援の提供:
障がい者や高齢者は、適切な食事や医療、介護などの支援が必要です。災害発生時には、そのニーズに合わせた支援を迅速に提供することが不可欠です。避難所に嚥下しやすい食べ物や、カテーテル等の物品の備蓄をします。
コミュニティの支援体制の強化:
地域のコミュニティや支援組織との連携強化が必要です。地域のリーダーシップやボランティア活動の促進によって、被災者への支援がより効果的に行われるでしょう。地域住民の繋がりの再構築等を行います。
災害時の情報伝達の改善:
障がい者や高齢者など、情報へのアクセスが難しい人々に対しても、適切な情報を提供するための仕組みやツールの整備が求められます。
避難行動要援護者名簿の活用(5):
名簿から最寄りの福祉避難所を割り当て、発災後迅速に避難できるようにします。
これらのポイントを踏まえて、災害弱者への支援のあり方を総合的に考え、体制や対策の改善を図ることが重要です。それに加えてOBJが行っている「市民ソーシャルワーカー育成プロジェクト」(6)のように、地域の住民同士が繋がりを再構築し、共助の力をつける事で減災につながることを期待します。
伏見 隆次(フシミ タカツグ)
静岡市出身
2007年交通事故により脊髄損傷。以降車椅子生活を送る。
日本福祉大学 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科卒
社会福祉士
参考引用・参考文献
1 株式会社ヘラルボニー
https://www.heralbony.jp/
2 「避難はしませんよね?」災害で消えてしまう障害者たち。「#障害者を消さない」に込めた想い【能登半島地震】
三ツ村 崇志 [編集部]
https://www.businessinsider.jp/post-280893
3 災害対策基本法 「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、被災住民の生命若しくは身体を災害から保護し、又は居住の場所を確保することが困難な場合において、当該被災住民について同一都道府県内の他の市町村の区域における一時的な滞在(以下「広域一時滞在」という。)の必要があると認めるときは、当該被災住民の受入れについて、当該他の市町村の市町村長に協議することができる。」(第86条の8第1項)
(平成25年6月改正)
総務省
https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjarfWu8paEAxVRdPUHHckXDUoQFnoECAwQAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.soumu.go.jp%2Fmain_content%2F000298460.pdf&usg=AOvVaw0jl-Gavpfzb4yGKc_wK474&opi=89978449
4「福祉避難所に入れず指定避難所で生活する障害者も」
NHK石川NEWS WEB 1月30日17時12分
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kanazawa/20240130/3020018645.html
5 「避難行動要支援者及び要配慮者等災害時の社会的弱者の命を守るために」
日本大学危機管理学部 准教授 鈴木秀洋
6 OBJホームページ 「市民ソーシャルワーカー育成プロジェクト 地域を支えていく防災体制づくり」
このプロジェクトでは、社会的な制度・サービスを活用して地域の困りごとを解決するソーシャルワークを市民が学び、福祉の担い手となって地域を支えていく防災体制づくりの活動を進めています。
https://objapan.org/socialworker-project/