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【連載 3.11から10年】~住民を繋ぐ憩いのコミュニティカフェを目指して~

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から、まもなく10年目を迎えます。
オペレーション・ブレッシング・ジャパン(OBJ)の支援活動の歩みは、まさに東日本大震災から始まりました。

震災からの真の復興を目指す今の福島の姿を、多くの人たちに伝えたい。そしてこれからの未来を共に考えるきっかけにしてほしい。その思いで、今回から合計6回にわたって福島復興特集「3.11から10年~支援者の想いを背負って~」を連載致します。

第1回目は、私たちが福島県南相馬市にかまえる復興コミュニティスペース「ブレッシングルーム」内のカフェで働く、一人のスタッフのストーリーをご紹介します。

【連載】3.11から10年~人々を繋ぐ憩いのコミュニティカフェを目指して~


復興コミュニティスペース「ブレッシングルーム」の一角に店を構える「soyo cafe」。ここは2019年、私たちが被災地域の雇用創出とコミュニティ支援のために立ち上げたカフェです。

ここでマネージャーとして働いているのが、OBJスタッフ木幡ゆりさん。
小中高と南相馬市で育ったゆりさん。東京日本女子体育大学を卒業した後は、福島県富岡町の双葉地区教育構想に1年半従事し、社会をリードする若者の人材の育成に携わりました。その後再び上京し就職することに。
南相馬の実家に戻ったのは、奇しくも3.11の前日。危篤のお祖父さんの最後に立ち会うためでした。

3.11がもたらした混乱と分断

お祖父さんが亡くなった直後、突如襲ってきた大地震、そして立て続けに入ってきた原発事故の知らせと避難指示。
「ここにいては危ない――」数少ない親族で葬儀を執り行うと、息つく間もなく家族が運転する自家用車に乗り、埼玉県へ避難しました。

しかし、土地勘もなく友人もいない場所での生活は苦労も多く、県外の人の放射線に対する理解に強い温度差を感じました。そこから徐々に心身に不調をきたすようになったゆりさん。
「たとえどんな状況だとしても、生まれ育った場所に戻りたい」という思いが、いつも心のどこかにあったと言います。
それから半年後、放射線量が落ち着いてきたことをきっかけに、南相馬へ戻る決心しました。

We Care Fukushima -福島にあなたの愛と希望を-

震災後市内のあちこちに積み上げられた、除染土の入ったフレコンバック

しかし、そこには以前の故郷とは異なる空気が、地域全体に漂っていました。放射能への恐れ、帰還の選択、賠償問題などによって、それまで同じ地域で暮らしていた人々の間に亀裂が入ったように感じたのです。
それはまるで、地域の人間関係や、ささやかな伝統といった『目には見えないもの』が、バラバラに壊されてしまったような感覚でした。

OBJ、そしてsoyo cafeとの出会い

ゆりさんとOBJが出会った2019年。
当時OBJでは、分断された南相馬の再建へ向け、地域の交流拠点として復興コミュニティスペース「ブレッシングルーム」とコミュニティカフェ「soyo cafe」をオープンさせたところでした。
「soyo cafe」を始めた目的は、単に美味しいメニューを地域に提供するのではなく、お客さん同士がコミュニケーションを楽しみ、「行くとホッとする居場所と体験」を提供することです。そこで新しいスタッフを探していたところ出会ったのが、結婚し母となったゆりさんでした。

ゆりさんはカフェの中で多くの住民の方とかかわり、様々なイベントを企画しました。
おもわず足を運びたくなるようなメニューの開発や、親子で参加できるワークショップイベントの開催など、住民の方同士が交流し、緩やかに繋がる居場所づくりに積極的に取り組みました。

昨年12月に開かれたクリスマスリース作りのワークショップ

カフェに来るお客さんは、会話を求めてくる一人暮らし高齢者、子連れでのんびりしたい若い母親など様々ですが、特徴的なのは皆おしゃべりや情報交換を楽しみにしているということです。
ゆりさんは、様々な背景を持った住民の方々と出会い、繋がり合う姿を見ていくうちに、カフェが分断された地域を結び合わせていく可能性を感じました。

ワークショップ参加者のお母さんたち。ここから顔見知りになり、友達になったという人も

「私自身、OBJと関わっていくうちに考え方が変わっていきました。
震災は福島から多くのものを奪い、私たちの暮らしそのものを変えていきましたから、その悲しみは簡単に言えるものではありません。
でも大切なのは、悲しみや葛藤が完全になくなるということではなく、むしろ癒えない痛みを抱えながらも、その想いを共有できる仲間がいるということなのではないかと思うようになりました。
私にとってまさにOBJが、そんな想いを分かち合える特別な存在です。その存在が、今の自分の心の支えになっています。」

OBJを通じて出会った仲間たちと

地域の人と人のつながりを紡ぎなおすことで、新しい福島の姿を創造し続けるsoyo cafe。
「この『3.11から10年』を、福島の今の姿に目を向け、これからの未来について真剣に考えるきっかけにしてほしい」と語るゆりさんは、カフェの可能性を信じ、今日もsoyo caféに立ち続けています。

次の10年に向けた取り組み

私たちが今取り組んでいるのは「あいまいな喪失」と言われる心の問題です。
津波によって家族が行方不明になった、原発事故によって故郷が昔と大きく変わってしまった――東日本大震災で被災した方々のこうした喪失体験は「あいまいな喪失」と呼ばれ、個人の心や震災を経験していない世代に長期にわたって深刻な影響を与えるいわれています。
専門家は、個人と他者との情緒的な結びつき(心の家族)が、あいまいな喪失に耐えうる心を育てると提言しました。
OBJは、コミュニティづくりを通して傷ついている人々の心に寄り添いながら、あいまいな喪失とトラウマから回復する働きを行っています。

私たちの活動は、多くの支援者の方々のご協力によって支えられています。いつも応援頂き心から感謝致します。
これからの10年に向けた働きを、共に支えていただければ幸いです。

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